「習慣の力」 Chapter 1-⑤
人間の体とは不思議なものだ。
例えば、今まで経験したことのない激しい運動後、
翌日には必ず筋肉痛になる。
ところが、毎日同じ運動を繰り返すと慣れてくる。
正に「習慣の力」の凄さであろうか。
実は同じことが整体の効果についても起こる。
あれほど気持ちよかったX先生の施術後の感覚。
2、3回と回数を重ねると、効果が薄れてくる。
あれ、どうしたことか?
X先生は職人として、毎回施術の動きと順番は、
完璧に計算されていて変わることがない。
違うのは、微妙な力の入れ加減のみだ。
体も慣れてきたのか、施術中のイタ気持ちよさ。
こちらも回を追うごとに喪失していた。
無言でただ黙って施術をうけているだけで、
正直頭の中ではいろんな考えがめぐってくる。
「あまり体に効いていないのでは・・・」
特に、隣のベッドでO先生が施術されていると辛い。
O先生の軽妙なジョークに女性患者の笑い。
グルメからアイドルの話まで会話が弾む。
比べてこちらは「大丈夫」「はい」の返答のみ。
最初何度かX先生との会話を試みてみた。
ただ、会話は弾まない。職人なのだ。
こちらが会話の主導権をとるのはどうもおかしい。
あくまで客の立場なので、変に気は使いたくない。
「今日はここまでです」
4回目だったろうか、X先生の定型フレーズの後、
正直に体の状況をX先生に伝えてみる。
X先生は冷静に眉ひとつ動かさずに次の回答。
「それは少しずつ良くなっている証拠です。
ただ効果を実感したければ足裏はいかがですか。
別の先生になりますが、この後いかがですか。」
「お願いします。」
思いがけないX先生のアップセルトークに、
私は防御姿勢をとることができなかった。